社会保険

厚生年金は本当におトク?

会社員なら必ず加入している厚生年金。

毎月の給与明細を見ると、健康保険料や所得税、住民税などと同様に厚生年金保険料として給与から天引きされています。額の程度はあるにしても保険料は決して安くはありません。

毎月支払う保険料ですので将来おトクになるかどうか気になるところです。

結論から言うとおトクです。ただし、40年(480月)以上の加入や65歳以上の加入は少し注意が必要ですのでここも解説します。

厚生年金の種類

厚生年金は、大きく3つに分けられます。

  • 老齢厚生年金 老後の生活支援
  • 障害厚生年金 障害を負った時の生活支援
  • 遺族厚生年金 亡くなった後に残された遺族の生活支援

この記事では老齢厚生年金にフォーカスして解説します。

年金と生活資金

ファイナンシャルプランナーの老後資金の設計には必ずと言っていいほど厚生年金、基礎年金(国民年金)が含まれています。今のところ、年金は老後資金のベースなのです。

ふと気づくと人生100年時代に突入してました。正直「いつの間に」です。雇用継続制度で65歳まで働いたとして引退後35年もあります。貯蓄だけで逃げ切れる自信がないです。ではどうするか。

私はリタイア資金に足りないお金は少しでも長く働いて収入でカバーする予定です。そのための資金計画と自分への投資を行ってます。株はさんざん失敗してセンスがみじんこだということが判明したので、金融投資は最低限に、自分のスキルアップに投資して体を動かして収入を得る計画です。年金もその一つ。私の場合その方がリターンも見込めそうなので。

私の話はさておき、老後資金のベースになる厚生年金にはどんな人が加入できるのかお話しします。国民年金と違い厚生年金は誰でも加入できるわけではないんです。

年金加入者の種類

冒頭に会社員なら必ず加入していると書きました。少し補足です。

正確には「適用事業所」に勤める70歳未満の会社員なら必ず加入※です。        ※特定適用事業所以外の短時間労働者などは厚生年金に加入できない場合があります。

「適用事業所」の範囲は、法人または個人事業主の場合は従業員5名以上の事業(建設、通信、物販、製造などの法定16業種※)です。従業員は有無を言わさず強制加入です。

5人未満の個人事業なら任意加入ができます。※法定16業種以外の業種なら5人以上でも任意加入です。

年金加入者のことを被保険者と呼びます。被保険者の種類は以下の4種類。

  • 当然被保険者
  • 任意単独被保険者
  • 高齢任意加入被保険者
  • 第4種被保険者(旧法における任意加入被保険者)

です。

このうち当然被保険者が、適用事業所に勤めている70歳未満の方です。ほとんどのサラリーマンは当然被保険者です。任意単独被保険者は70歳未満だけど適用事業所に勤めていない方などが厚生年金に入りたい場合に選択することができます。

厚生年金はサラリーマン(会社から給与をもらう人)のための年金なので、自営業の方は入れません!

最後に高齢任意加入被保険者は70歳以上のサラリーマンで老齢厚生年金や国民年金の老齢基礎年金をもらえる「権利」がない方が任意に加入することができます。

ここでは第4種被保険者は割愛します。

年金が支給される条件

前述した「権利」は年金をもらえる受給権のことです。加入期間10年で老齢厚生年金の受給権を取得します。

もう少し詳しく言うと、老齢厚生年金をもらうための要件は

  • 65歳以上であること
  • 保険料納付済期間と保険料免除期間、合算対象期間とを合算した期間が10年以上あること

です。

ついでに言うと、国民年金(老齢基礎年金)の受給資格期間の10年を満たしていれば、厚生年金の被保険者期間がたとえ1ヶ月であっても、1ヶ月分の老齢厚生年金が支払われます。

なので、例えば5年会社に勤めてその後自営業をしながら5年以上の国民年金の保険料を納めれば厚生年金の受給権も得ることができます。

厚生年金は5年しか加入していないのに10年の受給資格期間を満たすんです。

実は厚生年金に加入すると自動的に国民年金に加入したことになるからなんです。しかも、厚生年金の保険料だけで国民年金の保険料を納めたことになります!

なので国民年金の受給資格期間10年を満たすこととなり、同時に厚生年金の支給要件を満たすことができるのです。

更に年金の支給額は厚生老齢年金5年分+老齢基礎年金10年分をもらえます。

老齢厚生年金はいくらもらえるの?

老齢厚生年金は基本的に「報酬比例部分」と「経過的加算」の合算額が支給されます。そのうち報酬比例部分は

平均標準報酬額×5.481/1000×被保険者期間の月数

で計算されます。

「被保険者期間の月数」は言い換えると「保険料を納めた月数」です。

平均標準報酬額は簡単に言うと年収÷12です。詳しくは平成15年4月1日前と後とで計算式が違いますし、各月ごとの標準報酬月額※(月額です!)と標準賞与額(ボーナスです!)に、昔の報酬(給与)を今の評価額に換算するための再評価率をかけたりします。この記事では概要を掴んでいただくために簡略化していますが、おおよそ近い数字になると思います。入社した頃より給与が格段に上がっている羨ましい人は直近の給与だけをこの計算式にあてはめると差異が大きいかもしれません。

では年収が高い人は青天井に年金額が上がるのかといえばそうではありません。

標準報酬月額には上限(32等級65万円)がありますし、標準賞与額にも1ヶ月につき150万までしか年金額の計算には反映されません。

国の支援としての年金には、老後の生活に大きな差をつけないためとのことです。

※標準報酬月額とは、給与を標準報酬月額等級表に定められている金額に当てはめた報酬額です。毎年4〜6月の給与をもとに9月1日に見直しされます。

加入期間480月以上は注意が必要!?

報酬比例部分は先ほどお話しした月々の給与とボーナスで支給額が決まります。

では経過的加算とはどんなものでしょうか?

少し年金の歴史に触れます。旧厚生年金は報酬比例部分と定額部分の2階建てでした。昭和61年に年金の大改正が行われて、旧厚生年金の定額部分が国民年金(基礎年金)になりました。旧厚生年金の定額部分と国民年金を比べると、国民年金の方が若干低額でした。これを補うために作られたのが経過的加算です。

経過的加算は次の式で計算します。

①1,628円×厚生年金に加入した期間(最大480月)×改定率

②780,900円×改定率×20歳から60歳までに厚生年金に加入した期間÷480

①から②を引いた金額が経過的加算です。(昭和21年4月2日以後生まれ)

経過的加算の計算式①は最大で480月まで増額できます。また、経過的加算は国民年金の支給額に関係なくもらえます。

例えば、20歳から25歳まで学生時代も含め国民年金の保険料を5年間(60ヶ月)納付して、25歳から65歳まで雇用継続も含めて40年間(480ヶ月)会社員として厚生年金に加入していたとすると

①1,628×480月=781,440円

20歳から60歳までの間に厚生年金に加入ていた期間は35年(420ヶ月)なので

②780,900円×420月(35年間)÷480月=683,288円

①ー②で98,152円の経過的加算が受給できます。(改定率は除外)

さらに、20歳から25歳までの5年間を国民年金の被保険者として、25歳から60歳までの35年間を厚生年金の被保険者として合計40年(480ヶ月)保険料を支払っていますので老齢基礎年金は満額の780,900円(改定率除外)を受給できます。

これ大きいですよね。

ただし、経過的加算の上限480月を超えると注意が必要です。前述のケースで65歳からも同じ厚生年金保険料を支払ったとして経過的加算は増額されません。さらに65歳以上で働く場合、在職老齢年金による支給停止があります。

在職老齢年金とは、収入のある人が老齢厚生年金をもらえる場合に毎月の報酬比例部分と給与を足して支給停止となる調整額を超えた分の半分の年金支給を停止する制度です。

現在の支給停止調整額は月額47万円です。

65歳以上も働く場合は、在職老齢年金の支給停止額に注意しながら年金繰り下げをしつつ働くのがいいのでは思っています。私は65歳過ぎたらそんなにガッツリ働かず仕事と家庭と遊びのバランスがとれた生活をしたいというのが個人的な感想です。

厚生年金の保険料はいくら?

もらえる額がわかったので次は支払う額です。

厚生年金の保険料は標準報酬月額等級表で決まった標準報酬月額に18.3%をかけた額です。ボーナスも150万円を上限に18.3%をかけた額です。

そのうち半分は会社がみなさんに変わって負担してくれています。なので個人の負担は9.15%ですね。

給与が29万円の人は、標準報酬月額等級が19等級で標準報酬月額が30万として計算されます。保険料は、300,000×18.3%=54,900円で会社と折半なので、個人の負担は27,450円です。

前述したように厚生年金の保険料は国民年金の保険料も兼ねてます。国民年金の保険料が月額約17,000円ですから、1万円ちょっとで厚生年金に加入しているようなものです。さらに、配偶者が専業主婦(夫)の場合、配偶者が国民年金の第3号被保険者となり国民年金の保険料17,000円が無料になりますから、毎月7,000円もプラスでおトクです!

厚生年金は何年で元がとれるの?

給与が30万円の人が25歳から65歳まで40年間会社に勤めたとします。厚生年金保険の月額保険料は

30万円×18.3%÷2=27,450円ですので40年間の合計は13,176,000円です。

65歳からもらえる額は

①報酬比例分                                   30万円×5.481/1,000×480ヶ月=789,264円

②経過的加算は98,152円(計算式は前述の通り)

合計887,416円ということは、約14年11ヶ月でもとが取れます。

厚生年金だけでも約80歳から丸もうけ期間ですね。でも実際のところ老齢厚生年金に加えて老齢基礎年金(国民年金)が支給されます。

もしも、国民年金の保険料を20歳から5年間と厚生年金の保険料を25歳から60歳まで35年間支払っていたら老齢基礎年金は780,900円の満額をもらえますので、老齢厚生年金と老齢基礎年金を合わせて1,668,316円支給されます。

国民年金の保険料が17,000円ですので5年間で1,020,000円。これと先ほどの厚生年金の保険料13,176,000円を合わせた額を年金の合計支給額1,668,316円で割り戻すと、8年6ヶ月でもとが取れます。65歳から100歳までの35年間の総支給額はなんと58,391,060円です。

人生100年と考えるとがっつりおトクです。

さいごに

お伝えしましたとおり、総じて厚生年金はおトクな制度といえるのではないでしょうか。

生きている限りもらえますし、まさに「生きてるだけで丸もうけ」です。いや、死んでも配偶者が生きている限り遺族厚生年金が支給されますのでやっぱりおトク?です。死んだら元も子もないですが。

さて、老齢厚生年金について概要だけでもお分かりいただけたでしょうか?この記事では詳しくお伝えしませんでしたが、厚生年金には「繰り下げ支給」や「在職老齢年金」、「加給年金」や「特別加算」という制度もありますのでこちらも追ってご紹介します。

年金定期便が届きましたら必ず内容を確認してください。

将来の生活は誰にもわかりませんが、年金や税金の仕組みを知ることでお金の不安は軽減できます。しっかり学んで楽しいリタイア計画を立てましょう。

法律に記載している難しい表現をできるだけわかりやすい言葉に変えていますので、専門の方がみると「ん?」の表現もあるかもしれません。この記事では初めて年金を勉強する人に年金の概要をわかっていただくことを目的にしていますので笑ってコラえてください。